
無料一人用朗読台本
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キミがいなくなってから一年が経った。 この一年間、 僕はずっとキミの痕跡に囚われていた。 網膜に焼き付いたキミの残像に憂い、 鼓膜に刻み込まれたキミの残響に嘆き、 茫漠とした感傷にひたすら身を委ねていた。 ノスタルジーは猛毒だ。 しかも、依存性が高い。 少しでも気を許せば、あっという間。 懐かしい、という甘くとろけるような感情に身も心も蝕まれていく。 二度とは戻らない過去にすがり続けるだけの肉塊に落ちぶれていく。 キミと過ごしたこの町はノスタルジーの爆心地。 デートの待ち合わせ場所にしていた駅前の公園。 学校帰りによく行ったショッピングモール。 いつものコンビニ。 初めて手を繋いだ場所。 初めてキスをした場所。 ……。 最後にキミが笑って、泣いていた場所。 どこに行ってもキミの痕跡ばかり。 スマホの中も、 頭の中も、 キミとの思い出だらけ。 だから、 僕はもうキミの痕跡を全て排除することに決めたんだ。 一歩、前に進むために。 苦しみから解放されるために。 そんな言い訳を何度も何度も口にして。 スマホのデータをクラウドごと、ごっそりと削除した。 キミが無邪気に笑っていた写真。 キミと夏祭りに行った動画。 キミと他愛もない会話をしたメッセージアプリ。 全て。 跡形もなく。 削除した。 そして、 キミがプレゼントしてくれた宝物を一つ一つ丁寧に、 砕いた。 原形を留めないくらいに、粉々に。 元の形を思い出せないくらいに、ぐちゃぐちゃに。 全て。 跡形もなく。 粉砕した。 キミとの思い出を脳内で何度も何度も、 執拗に、 磨り潰していった。 キミの顔も、キミの声も、キミのにおいも、 キミのぬくもりも、キミの優しさも、キミの冷たさも、 一切合切。 ひたすらに。 頭の中から抉っていった。 やがて、 途方もない年月を経て、 僕はやっとキミの痕跡を全て排除することに成功した。 もはや、 キミの名前すら思い出せない。 網膜には何も映らない。 鼓膜には何も響かない。 心を締め付ける苦しみもない。 未練も後悔も感傷もない。 僕はただ、 無色透明の虚ろな存在へと成り果てたのだから。
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